
産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)は、新型コロナウイルス感染症の影響で事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、在籍型出向によって雇用を維持する際に活用できる助成金です。2023年6月26日、産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)の支給要件の一部が変更となりました。
今回は産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)の内容や支給要件の変更点、申請方法についてお伝えします。
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この記事の目次
在籍型出向とは
「出向」とは、労働者が元の企業との関係を保ちながら、出向先企業とも新たな雇用契約関係を結んで一定期間勤務することを指します。特に「在籍型出向」は、出向元企業と出向先企業との間で出向契約を結ぶことで、労働者は出向元企業と出向先企業の両方と雇用契約を交わす状態のことを言います。
出典:厚生労働省
産業雇用安定助成金の概要
事業活動の縮小を余儀なくされるなか、休業や教育訓練、出向を通じて雇用維持を図ることは、労使双方にとってメリットがあります。企業の活動を維持し、将来的な発展へとつなげるため、雇用維持に関する取組を支援するのが産業雇用安定助成金です。まずは産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)の主な要件や、支援内容を見ていきましょう。
支給対象となる「出向」
1.新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図ることを目的に行う出向である |
2.出向期間終了後は元の事業所に戻って働くことを前提としている |
3.資本的、経済的・組織的関連性などからみて独立性が認められる |
4.出向先で別の人を離職させるなど、玉突き出向を行っていない |
なお、上記3について、令和3年8月1日からは一定の要件を満たせば、独立性が認められない事業主で実施される出向も助成対象になっています。
支給対象となる「事業主」
■出向元事業主
新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされたため、労働者の雇用維持を目的として在籍型出向により労働者を送り出す事業主
■出向先事業主
当該労働者を受け入れる事業主
支給対象となる「出向労働者」
■出向元事業所において雇用される雇用保険の被保険者であって、対象となる「出向」を行った労働者
ただし、「令和4年12月1日以前に提出した計画届に基づく出向」と「令和4年12月2日以降に提出した計画届に基づく出向」では、一部要件が異なりますのでご注意ください。
受給額
各受給額は、以下のとおりです。
①出向初期経費助成 | |
対象 | 出向元事業主と出向先事業主 ただし、企業グループ内出向の場合は支給されません。 |
内容 | 出向前に行う、出向の助成に必要な措置 |
助成額 | 1人あたり10万円 出向元事業主また出向先事業主がそれぞれ一定の要件を満たす場合、1人あたり5万円が加算されます。 |
②出向運営経費助成 | |
対象 | 出向元事業主と出向先事業主 |
内容 | 出向中に必要な経費の一部を、最長2年まで助成 |
助成額 | ・出向元が労働者の解雇などを行っていない場合 中小企業…9/10 中小企業以外…3/4 ・出向元が労働者の解雇などを行っている場合 中小企業…4/5 中小企業以外…2/3 ・企業グループ内出向の場合 中小企業…2/3 中小企業以外…1/2 ・上限額(出向元・出向先の合計) 1人1日あたり12,000円 なお、出向先事業主の上限は、1年度当たり500人です。 |
③出向復帰後訓練助成 | |
対象 | 出向元事業主 |
内容 | 出向から復帰した労働者に対して、出向で新たに得たスキル・経験をブラッシュアップさせる訓練(OffーJT)を行った際に、訓練に要する経費と訓練期間中の賃金の一部を助成 |
助成額 | ・実費 上限は30万です。 ・賃金助成 1人1時間あたり900円 上限は600時間です。 |
最近の改正の内容
産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)は、これまでも何度か内容の見直しがありました。最近の改正内容は、以下のとおりです。
【令和3年8月1日開始】「独立性が認められない事業主間で実施される出向」も対象に |
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新たに助成金の対象となった「出向」の要件は、以下のとおりです。 ・子会社間の出向など、資本的・経済的・組織的関連性などからみて独立性が認められない事業主間で実施される出向 ・新型コロナウイルス感染症の影響による雇用の維持のために、通常の配置転換の一環として行われる出向と区分して行われる出向 ・令和3年8月1日以降に新たに開始される出向 |
【令和4年8月1日開始】計画届の提出時期の変更 |
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以前は労働者の出向時期に関わらず出向開始日の前日までであればいつでも計画届の提出ができましたが、改正後は、次のいずれかに限定されました。 ①出向開始日が計画届の提出日から起算して3か月以内 ②出向終了日が①に該当する者のうち、出向開始日の最も遅い者の出向開始日から起算して12か月以内 |
【令和4年10月1日開始】支給と助成対象の拡大について |
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①支給期間の延長 (令和6年3月31日まで) ※「最長1年」から「最長2年」へ ただし、「延長届」の提出が必要です。 ②支給対象労働者数の上限撤廃 ※「出向元・出向先ともに最大500人まで」から「出向元事業所に限り上限撤廃」へ ただし独立性が認められない事業主間で実施される出向は、これまでどおり最大500人までです。 ③出向復帰後の訓練(OffーJT)に対する助成 ※出向から復帰した労働者に対して、出向で新たに得たスキル・経験をブラッシュアップさせる訓練(OffーJT)を行った際に、訓練に要する経費と訓練期間中の賃金の一部を助成します。 訓練開始日前日までに「復帰後訓練計画」の提出が必要です。 |
支給要件の見直しと変更点
令和5年6月26日から、支給要件の見直しが行われます。主な変更点は、以下のとおりです。
①出向元事業主の雇用量要件の追加
これまで要件のなかった出向元事業主にも、以下の雇用量要件が設けられました。
- 計画届の提出日の属する月の前年同月から前月までのいずれの月も新たに雇用保険被保険者となった者がいない
- 出向期間中、新たに雇用保険被保険者となった者がいない
- 雇用保険被保険者数が増加していない
- 派遣労働者数による雇用量を示す指標の最近3か月間の月平均値が、5%を超え、かつ6名以上増加していない(中小企業主の場合は、10%を超え、かつ4名以上増加していないこと)
②出向元事業主の生産量要件の変更
【現行】原則、最近1か月間の値が前年同期に比べ5%以上減少していること
【改正後】最近3か月間の月平均値が、前年同期および2019年同期に比べて、いずれも5%以上減少していること
③出向先事業主の事業所設立からの期間に関する要件の追加
支給対象となる出向先事業所の要件に、以下を追加します。
「会社を設立した日の翌日から起算して1年以上が経過していること」
申請方法
本助成金を申請するには、出向元事業主が「支給申請書」に必要な書類を添付して、都道府県労働局に提出します。必要な書類と申請期限は、以下のとおりです。
提出書類
必ず提出する書類は、以下の①~⑦です。
①支給申請書
②出向初期経費報告書
③出向元事業所賃金補填額・負担額等調書
④出向先事業所賃金補填額・負担額等調書
⑤支給対象者別支給額算定調書(共通)
⑥支給要件確認申立書(産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース))
➆出向の実績に関する書類
そのほかの書類に関しては、以下の表を参照してください。
出典:産業雇用安定助成金ガイドブック
申請期日
支給申請は、「支給対象期」ごとに行います。申請の期日は、「支給対象期」の末日の翌日から2か月以内です。なお、申請の期日の末日が行政機関の休日に当たる場合は、その翌開庁日が期日となります。
出向初期経費は、原則その出向労働者にとって初めての支給申請の際に申請してください。
まとめ
雇用維持のための取り組みは、それ自体にも費用的負担を伴います。事業縮小を余儀なくされている中で新たな契約や雇用のための整備を行うことは、中小企業にとって、厳しい決断です。
一方で労働者を守ることは、将来的な企業成長にとっても重要なことです。出向した労働者が得たスキルは、企業の新しい戦力ともなります。
産業雇用安定助成金(雇用維持支援コース)を上手に活用し、負担を軽減しながら、出向の取組を有意義なものにしていきましょう。